平成10(1998)年までの4年間、
赤字続きで借入金は70億円にまで膨らんでいた。
年収120億円の半分以上の借金である。
バブル崩壊に、阪神淡路大震災、
地下鉄サリン事件と相次ぐ事件に乗客が激減していました。
はとバスが赤字に陥ったのか。確かにバブル崩壊に
よる不景気は大きな打撃だったが、
その後、景気が徐々に回復していく中でも、
はとバスが業績を下げていったのは、
社員の中に「顧客第一主義」が浸透していないからだと考ました。
ある運転手から出た提案の一つに、お客様が
バスから乗り降りする際に、踏み台を置いては、
というアイデアがあった。観光バスから何度も
乗り降りするお客様を思いやっての提案でした。
しかし、実施するとなると、踏んでも
ぐらつかない踏み台にする必要がある。
宮端さんが「かなりの重量になると思うが、
その重い踏み台は誰が運ぶのか」と質問すると、
「バスが止まり、お客様が乗り降りするために、
私たちがトランクから出し入れします」。
社員の協力が物を言いました。
宮端清次社長は
「お客様に満足していただくためには、労を惜しまない」と
いう姿勢に心を打たれました。鉄製の頑丈な踏み台は、
一個50万円もする代物でしたが、150台のバスすべてにつけることにしました。
運転士によると、この踏み台を出すと行く先々で他の
観光バスの乗客から羨望の視線が集まるということで、
お客様の乗り降りが楽になったばかりでなく、
はとバスのサービスの高さを示す、よい宣伝になったようです。
組織図を逆さまにしただけでは、人々の意識は変わらない。宮端さんは、社内で「末端」という言葉を使うことを禁じた。ある役員が、今までの意識のまま「この計画を末端まで周知徹底して行います」と言った時に、宮端さんは「何を言っているんだ」と一喝した。
末端は社長であり、お客さまと接する現場の社員は「先端」なのです。
利用客の幅を広げることと利用頻度の向上
「はとバス」の提供価値は、地方からの
観光客だけでなく地元の東京近隣にお住いの方
にも魅力的なものとなっています。
つまり、この提供価値が、「利用客の幅を広げる」
ことに貢献しているということです。
60分や90分などの短時間ツアーを充実させることで、
「利用客の幅を広げる」ことにつながっているわけですね。
また、短時間ツアーを充実させている理由として、
もうひとつあげられるのが「利用頻度の向上」です。
1時間ツアーを体験した方が、満足されれば
また利用してみようとなるわけで、しかも、
様々なコースがラインナップされていますので、
選ぶ楽しさもありますし、利用しようと思った
顧客を後押ししてくれます。
宿泊の旅行を毎月いくことは考えなくても、
数時間のツアーで「思い出に残る体験」が
できるのであれば、毎月、
参加される方もいらっしゃるのではないでしょうか。
要するに、「はとバス」はツアーを手軽にすることで、
「利用頻度を高めている」と言えそうです。